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2009年10月29日 (木)

北方謙三 「望郷の道」

※2008年10月22日 (水)の日記再掲

 

********* 

 

うちは日経新聞を取っている。

経済の紙面が充実しているのは言うまでもないが

日経は文化面もなかなかレベルが高い。

 

朝刊の連続小説、北方謙三さんの「望郷の道」が完結し、

先日、朝刊の文化面エッセイで北方さんのあとがきが掲載された。

 

物語のモデルは北方さんご自身の曽祖父なのだそうだ。

 

「人の心を揺り動かすような、男と女を描いてみせます」

そうご先祖に誓って、この小説を書かれたとのこと。

まさに、その通り。

主人公「正太」は、男も惚れる男、人の心を惹きつける魅力のある人物だ。

 

頭がいい。

度胸がある。

物事の本質を見つめる目を持っている。

本当の優しさ、人を思いやることを知っている。

 

もちろん、欠点もある。

自分で計画を立て、突っ走っていくのはいいが、かなり盲目的になる傾向がある。

そのため、殺人を犯してしまいそうにまでなってしまう。

お金に細かい面は、時々ケチな短所としても描かれていたし、

一時、浮気をしていたくだりもあった。(これはあまりにも色気のない物語だったのでサービスに挿入したようにも感じたが)

 

完璧な人間ではない。

とてもとても努力し、考え、行動し、

何もないところからいろいろなものを手に入れていった軌跡が描かれている。

 

正太の奥さんも、とてもカッコイイ女性として魅力たっぷり。

夫に寄り添い、支え、それだけでなく、自ら動き、

女性の視点から、正太には気づかない部分を補佐し、共に会社経営を、人生を歩む。

 

明治中期の話だが、奥さんが家の女将で、正太は婿養子ということもあり

女性も同等に権利、義務を持つ立場となっているので

現在の会社経営に通じる内容が描かれる。

 

登場人物の人間的魅力、

そして、逆境に負けず、工夫し努力する姿で、読者の心をつかみ読ませていく。

 

奥さんが正太と桜吹雪の中で出会ったシーンは、

奥さんの忘れられない思い出として何度か繰り返し出てくる。

厚い仁義を重んじる本物の侠客。

潔さ、華やかさを桜吹雪が香り立たせ、読者にとっても印象の強いシーンだ。

主人公のカッコよさが、ググッと際立つ。

 

物語の後半の舞台は台湾だが、

読者は戦後の台湾が日本の統治から解放されることを知っている。

大阪に大きな新工場を作るシーンも出てくるが、

第二次世界大戦末期に大阪は大空襲を二度にわたって受けており

この工場がどこに建てられたかはわからないが、おそらくは消失したのではないかと

なんとなくわかってしまう。

 

会社を興し、盛り立てていく場面で、そういう未来が見えるのがちょっと悲しい。

でも、その時を生きていた人達は、その時点での先の見通しでもって

いろんなことを考え、最大限の努力を尽くす。

それは、私達だってそうだ。

少し未来の人から見たら、「ああ、なんてことを」と思われることでも

わからずに、ただ精一杯生きているだけだ。

  

事件を起こし九州から所払い(追放)された主人公が、台湾に渡り

やがて事業を成功させ、

所払いを解かれ、故郷へ戻る・・・その軌跡を描いた物語。

熱くて濃いけれど、さらりとスマートなのは、

一本、筋の通ったものが芯に、しっかりとあるからだろう。

一生懸命に生きることはカッコイイことを感じさせてくれる話だった。

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