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2014年7月16日 (水)

恋のようなもの 1

あの人をどうして好きになったりしたのか、

今となってはもう思い出せない・・・というのは真っ赤な嘘で

彼を男として意識するきっかけになったエピソードは明確に胸に残っている。

 

その日、午後一番に役員会議があった。

必要な書類は全て揃え、準備は万端。

定刻通り会議は始まり、用を終えた私は大会議室から退室しようとしていた。

ドアへ向かって静かに歩いていたその時、

いきなり耳元で声がした。

 

「左端の席に座っている役員はどなたですか。」

 

低く響く声。

総毛立つとは、このようなことを言うのだろう。ぞわっと全身に緊張が走った。

考えるより先に、私はその場を飛び退き、背後にいるその人から距離を取った。思わず知らず、戦闘態勢に入っていたのだ。

それほど「危険」のアラートが私の全身に鳴り響いていた。

不意打ちの囁きは卑怯だ。背後から気付かぬうちに近寄るなんて、無防備なところを襲われた気分だ。

相手は、企画課の関原さんだった。彼は私の過剰な反応にギョッとした表情をしていた。

実際、そんなに近寄って話しかけたのではないかもしれない。しかし、不意だったこともあり、私としては耳たぶに彼の唇が触れそうなほどの距離で囁かれたように感じていた。

一瞬、睨むように彼を見詰めてしまい、戸惑う彼の様子に、自分の大人げない態度に気付いた。

そうだ、関原さんに他意はない。慌てて、その場を取り繕おうと、彼の質問に対する答えを返そうとしたが、まだ緊張の解けきらない頭は上手く回らなかった。

 

「・・・え?」

 

問い返すと、私の返答に関原さんは一気に緊張を緩め、ガクッと肩を落とし少し微笑んだ。そうして、もう一度私に近寄り今度は正面から小声で同じ質問を繰り返した。

 

役員たちがずらり居並ぶ会議室で、これ以上妙な行動をして目立つのは避けたい。

それに、左端の席にいる方は関連会社から今回特別に招かれた専門家で、名前をお教えしただけでは関原さんはその人の人物を把握できないはずだ。

かと言って、会議室内で長いヒソヒソ話はまずい。

 

「・・・ちょっとこちらへ。」

 

ドアを開き、廊下へ誘うと、関原さんは私の後について来た。

誰もいない廊下で向き合うと気恥ずかしさを改めて感じたが、とにかく質問に対する答えをなるべく手短に話した。

関原さんに真正面から見詰められ、再び私の思考が混乱しそうになる。

さりげなく、視線を長身の彼のネクタイに移した。

白地に水色や紺の小さな水玉模様、爽やかで涼しげなネクタイだった。

不意に、今日の出席者の一覧表のプリントがあったことを思い出した。

さっきからずっと胸の前で両手で握りしめ抱えていたファイルから、一覧表を取出し彼に手渡す。

 

「参考になさってください。」

 

一読すると、関原さんはニッと歯を見せて微笑み、

 

「ありがとう!」

 

そう言って、片手で会議室のドアを開き、堂々と入室していった。

濃紺に薄い青の細いストライプの入ったスーツ。

肩幅の広いその後ろ姿を眺めながら、この男は危険だ、と改めて思ったのだった。

 

※続き

恋のようなもの 2

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コメント

ドキドキして一気に読ませてもらいました。
これはもちろん続きがないと、読者は何とも、おさまりませんね^^;

しっかし凄い文章能力ですね。
理系女子いや文系女子間違いない!

◾︎同士さん
ありがとう!
じゃあ、続きも書いてみようかな
2年くらい前のネタで、何度か書こうとしてまとまらなかった話が、ようやく書けそうな感じなので

文章も、まだちょっとちゃんと書けてないんですが、とりあえず書き始めてみました
ラストも既に決まってるんだけど…
学校のバイトも夏休みになったので、課題代わりに書いてみまーす!

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