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2014年7月24日 (木)

恋のようなもの 2

「真由香は耳が弱いね。」

 

冷房のよく効いたホテルのベッドの上で、潤也がもがく私を組み敷く。

耳なんて誰だってくすぐったいんじゃないのと思うのだが、これまで付き合った男は皆、

執拗に私の耳を愛撫してくる。

「やめて」と懇願し、抵抗すればするほど火を点けてしまう。

そういうサドっ気がある男が私の好みだということかもしれない。

 

これまで、そう思っていたのだけど、

先日、会議室で関原さんに不意打ちの囁きをされて以来、

彼の低い声がずっと耳をくすぐり続け、妙に落ち着かないことを考えると、

やはり私は耳が弱いのだろう。

 

あの時、受けた衝撃を反芻するたび、これまで特に意識していなかった関原さんがとんでもなく猥雑な男に思えてくる。

6階フロアはほぼ全てが業務部で、関原さんの所属する営業企画課は、派遣で事務をしている私の席からはかなり離れていた。

それでも、彼の姿をこっそり眺めることはできたし、廊下や階段ですれ違うこともある。

 

水曜の午後3時は確実に、そのチャンスがやってきた。

木曜に開かれる定例会のための資料を作り、それを階下の会議室へと運ぶタイミングと

彼が打ち合わせを終え、戻ってくる時間がちょうど合うのだ。

 

ある時は大股で階段を駆け上ってくるのに出くわすし、

うつむきがちにゆっくりと考え事をしながら階段を上がってくる時もある。

派遣の私とすれ違って、挨拶をしてくれる社員は少ない。

ほんの形ばかりの会釈をしてもらえればいいほうだ。

 

だが関原さんは毎回、私をまっすぐに見、澄んだ声で

「こんにちは。」とはっきりとした挨拶をくれた。

「こんにちは。」くぐもった声で挨拶を返しながら、嬉しさを隠し、平常心を保つのに必死だった。

どんなに真摯に仕事をこなしても派遣と軽んじられ、評価をされない私を

ひとりの人間としてちゃんと目視し、きちんと応じてもらえている、、その感覚が嬉しいのか、

周りに誰もいない階段の踊り場で、関原さんにばったり会えるのが嬉しいのか。

両方なのか。

自分でもよくわからなくなっている。

 

コピーを取りながら、フロア内を忙しく歩き回る関原さんをそっと目で追う。

確かに彼は背が高く、スーツが似合う。

しかし、顔立ちが整っているかというと、そうでもない。雰囲気イケメンの部類だ。

今年30才になる彼は効率的に仕事をこなし、それでいて飄々とした雰囲気をまとっている。

真面目な表情をすると眼光が鋭くなり、迫力がある。学生の時はヤンチャもしたのかな、と思わす風情もある。

反対に笑うと途端に顔がくしゃっとなる。

関原さんは可愛い男だ。

 

隣の席の林課長と次の企画の意見の出し合いをしている関原さんを観察しつつ、コピーを取り終え、書類をまとめる。

部数を確認し、机の上でトントンと揃えて・・気付いた。

関原さんのフルネームさえ、私はまだ知らなかった。

 

 

※前回分↓

恋のようなもの 1

 

※続き↓

恋のようなもの 3

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コメント

関原さんのフルネームもまだ知らないのですね。
自分の30代の頃を思い出しながら、楽しませていただきました。
名前-趣味-お住まい-メアドと急速に間は詰まっていくのでしょうか^^
夏休みの楽しみです。

しっかし素晴らしい才能です。脱帽!

■同士さん

ありがとうございます~~
同士さんがおだててくれるので、続き書けそうです~~

一人でも読んでくれる人がいてくれたら、がんばれるものですね。


ネタバレしてしまってはアレなのですが、
この話は「恋」じゃなくて
「恋のようなもの」なので、そういう感じにはならないんですよ、、、
だいたい、真由香さんは潤也くんと深い仲のようですしねぇ・・・

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